文芸作品:大ちゃんの本屋さん
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文芸作品
DATE:
2007/08/19(日) 00:43
CATEGORY:
・文芸作品
『
アミ 小さな宇宙人
』
徳間書店
price :
¥1,365
release : 2000/12
【商品詳細】
すてきなほほ笑みと子どものような愛らしさをたたえた宇宙人アミが、地球の少年ペドゥリートを宇宙の「理想郷」に案内してくれるというお話。 南米チリに生れ、世界各地を旅してきた著者が、人類普遍の「愛」の哲学を平易な言葉で語る、メッセージ性の強い作品。童話の体裁をとっており、「理想郷」の描写も童心にあふれた楽しいもの。 著者にとっての「理想郷」を真正面から描いている部分に、違和感を覚える向きもあるかもしれない。ただ、決して「一人よがり」な世界観ではないし、続く第2巻、第3巻と、さらに広がりと深さを増していくので、忍耐をもって付き合う価値あり。世界11か国で翻訳されているだけのことはある。 さくらももこのように、はじめから涙を流して感動できなかったからといって、そこで投げ出さずにゆっくり読み進めてほしい。体によい食物のように、じんわり効いてくるから。第3巻を読み終えたころ、はじめに感じた違和感は解消され、とっても安らかな気持ちになる。 あえて高校生くらいから大人向け、として紹介したい。著者のメッセージを必要としているのは、幸せになれない大人たちの方だと思うから。(小野ヒデコ)
夢みる力を与えてくれる本
私は子供のころはいっぱい夢をもっていました。日本の法律上の大人(20歳)になってからは、同じように夢を語ったら「まだ夢みる子供ね」と言われてしまったことがあります。確かにあまりに現実的ではない夢ばかりみているのは精神的に幼いのでしょうが、私は世界をもっと住みやすくて楽しいものにする夢を大人も持っていいのではないかな?と感じている時に、この本に出会いました。毎日の学校や職場や家庭での大変なことや、テレビやインターネットで知る悲惨な出来事に触れていると、地球の未来が希望のないように感じてしまうこともありますが、本の主人公のアミといっしょになってこの本の世界を体験していく時間を持つことで、私は幸せで平和な世界を夢見る力をもらえます。本当の宇宙人はどんな人たちからは分かりませんが、この本に出てくるような人たちだったらいいなって思っています。そう願っていればいつかは夢がかなうかなって思うのは子供っぽいかもしれませんが、私はそんな子供らしさは失いたくないと思っています。この本は、すべての人の中にすむ「子供たち」におすすめしたいです。
『
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
』
新潮社
price :
¥580
release : 1988/10
生きるという事
『世界の終わり』と『ハードボイルド・ワンダーランド』二つのストーリーがだんだんと交錯していきます。
死について、そして、生について、考えさせられました。
『
海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
』
新潮社
price :
¥740
release : 2005/02/28
拡大・深化
世界的な評価を受けた作品です。村上春樹を読めば誰しもしてしまう「深読み」をいくらでも受け入れてくれそうな多様で深遠な内容です。相変わらず頑張らなくても読み進められるし、どんどん自分で想像していけますね。いやはや脱帽。村上さんが今回神話をモチーフに使っていることに少し違和感を感じたことも否めません(海外の人々向け?)が、面白いことに変わりありません。彼の語る物語の広がりは一体どこまでいくのでしょう...
『
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
』
新潮社
price :
¥620
release : 1988/10
うーむ、
正直言うと、大好きな小説にコメントは難しいものですね。この作品は村上春樹の小説の中で、特にその形式・構成の中に彼独特のバランス計量感覚が十二分に表現されている作品ではないでしょうか。平易な読みやすさと複雑なプロット、静と動・カタカナと漢字ひらがなの二つの物語、など「一見相反するもの」を描いていきつつ、その構成とバランスが最後まで大きな破綻なく進行していく様子に驚きを禁じ得ません。こういう作品を長編として書くことは、著者自身にどれほどの緊張の維持を要求するものなのでしょう?そしてラストだけはいずれも希望ある死(あるいは生まれ変わり)という点で二つのストーリーが類似・対峙する、絶妙という他ない気がします。自分でもうまく説明できませんが、何故か夜中に読むのが好きな作品で、かつラストは明け方に読み終わりたいと思っています。夜明けに希望を託したい、本能がそうさせるのでしょうか。
『
死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1)
』
早川書房
price :
¥714
release : 2000/00
恐るべき傑作
背表紙のあらすじに、「戦慄すべき完全犯罪を行おうとするアプレゲールの青年の冷酷非情な行動と野心」と書いてありましたが、まさにその通り。読みながら、何度も心の中で「げす野郎!」と叫んだことか。野心ゆえに、妊娠した恋人が邪魔になり完全犯罪を行う青年の心境が恐ろしい程に伝わってきました。切迫感に押しつぶされそうになりながら一気に読みました。冷や汗ものです。まだ読んでない人に是非味わって欲しい一冊です。
『
罪と罰〈上〉 (岩波文庫)
』
岩波書店
price :
¥798
release : 1999/11
永遠の聖女ソーニャ
僕は旅に出て、列車の待ち時間が長いときなどよく町の図書館にふらりと入って
たいてい置いてあるこの小説を手に取る。そして、この本の真ん中あたりを開く。
そこにこの小説の白眉のシーンがあるからだ。ラスコーリニコフがソーニャに
自分の犯した罪を告白するシーンだ。
純真なソーニャは人間の持つ邪悪さというものを想像することさえできない。
本当に天真爛漫な人間の持つ善良さがこれほどリアルでかつ魅力的なまでに
描写される小説を僕は他に知らない。
もし現実にそのような女性がいるならば本当にめぐり合ってみたいと思う。
人生の旅とはそのようなものでありたい。
『
風の歌を聴け (講談社文庫)
』
講談社
price :
¥400
release : 2004/09/15
アンディ・ウォーホルに通じる時代の感性
10年前に一度読んでいる村上春樹氏のデビュー作を改めて読んでみました。
ほのかに心温まる良作だと思います(以下は特殊な読み方かも知れません)。
再読して感じたのは、アンディ・ウォーホルの絵に通じる時代の感性でした。
作品の背景にあるのは1960?70年代。多量生産大量消費の時代の盛期であ
り、メディアの発達によって情報が無限に拡散していく時代の始まりです。
そういう時代にウォーホルは、マリリン・モンローの顔を20個プリントした
り、キャンベル・スープの缶詰を100個プリントしたりした作品を作るわけ
ですが、『風の歌を聴け』に頻繁に登場する「25メートル・プール一杯分ば
かりのビールを飲み干し」「床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻を
巻きちらし」といった過剰な数量の表現も、それに通じていると感じます。
数や量、情報が信仰される時代の中で、1つ1つ、1人1人の実在の価値が
希薄化する。作品全体に通じている、登場人物たちの生々しい実感の欠如の
ようなものは、そういう時代の表現だと思います(それは現代にも通じてい
るかも知れません)。その中で自分の存在意義を求めて挫折する人たち。体
を重ねながらも、心を通い合わせることができない男女。文章を武器として
戦っていた作家は、過剰な言葉を費やした挙げ句、意識主体である自分を消
滅させる…。そういう世界の中で、主人公たちが戸惑いながら発揮するナイ
ーブな優しさ、愛情に、この作品の感動の種があるような気がします。
『
フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life
』
中央公論新社
price :
¥1,890
release : 2006/06
『スカイ・クロラ』シリーズ第四巻!
21世紀に蘇った『かもめのジョナサン』とも云えるのではないか。
SF的なキャラクター設定を採りながらも、
本シリーズの中身は、実は純文学である。
他人を痛いまでに希求する寂しさを
大空の透明な孤高で昇華する主人公たちに
私たちが果たせない孤独の処理を託してしまう、そんな物語だ。
本書は第四巻ではあるが、
時間軸的には第三巻にあたる。
シリーズを通した主人公、クサナギの
パイロット後期時代が描かれている。
管理職に出世したクサナギを語り手から外し
同じキルドレのクリタに語り手を変えている。
これにより、クサナギのより透明な人物像と
苦悩が深く表現されている。
『
空中ブランコ
』
文藝春秋
price :
¥1,300
release : 2004/04/24
実は
伊良部と関わってしまった患者さんたち目線からのストーリーは全て伊良部と関わってしまった…というのがポイント。
伊良部に引っ掻き回されて患者さんの問題が吹っ飛んでしまう逆療法ともいえますが患者さんそれぞれ原因は読み手には割と単純なことに感じられるのでは?けれど自分に置き換えればきっと…だから彼らの病状は…。
誰しもそうですが側から些細だからといっても本人には大問題、その悩みを判ってるのか判ってないのかお騒がせ医者伊良部の行動でいつしか…。それぞれ些細な気持ちの落ち方だというのにその後の彼らは確実に未来に向かうことになります。実は伊良部より患者となっている人物のグダグダ描写が魅力。
サクサク読めてキャラクターもたってシリーズ化されているのも頷けます。
ただ氏の作品としては長編に比べてどうしてもエッジが浅くもあり。
『
琥珀の望遠鏡〈下〉?ライラの冒険III
』
新潮社
price :
¥740
release : 2004/06
魅力的なキャラクター
劇中の描写も読みやすく、登場人物も魅力的。
続刊は書かないとのことですが、その作者の気持ちが変わって欲しい、
という平凡な感想しか書けない。
挿絵も好きだな。
時間ができたら、もう一度読み返したい。
親が読ませたい、親に薦められても子供が嫌じゃない本。
『
その日のまえに
』
文藝春秋
price :
¥1,500
release : 2005/08/05
悲しいけれど、希望がある
死んでいく人と、残される人のことを描いた本。ほぼ1章ごとに話が完結していて、それぞれの語り手が同級生、幼馴染、夫、母親、妻の死を経験します。
誰にとっても死が避けられないのと同じように、愛する人との死に別れも避ける事できません。
“その日”は必ずやってきます。その日が来るまでに、死んでいく人と残される人は何を共有し、どんな思いを抱いていくのか。
ただ悲しいだけではなく、死が迫ることの意味を考えさせ、生きることの希望を持たせてくれるような本だと思いました。
『
卒業 (新潮文庫)
』
新潮社
price :
¥620
release : 2006/11
親子関係を考えさせられる作品群
「まゆみのマーチ」は息子と母親、「あおげば尊し」は息子と父親、「卒業」は娘と死んだ父親、「追伸」は息子と義理の母親。
それぞれの親子の関係は、ぎこちなく展開しますが、ラストはその段階をすべて「卒業」するところで終わります。従って、読後感はすべていいものです。しかし、そこに至る過程では、胸をつまされるような場面もあり、自らの「親」に対する対し方を考えさせられます。
四篇の作品は、どれも素晴らしい作品です。
特に、「追伸」のラストは感動的でした。
『
フィッシュ!―鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方
』
早川書房
price :
¥1,260
release : 2000/12
【商品詳細】
世の中には、好きな仕事に就いて、毎日が充実している幸せな人ばかりがいるわけではない。むしろ、つまらない仕事に鬱々として、月曜日から週末を待ちわびている人の方が多いかもしれない。そんな仕事を自分たちの心ひとつで楽しくしてしまう具体的な方法を、寓話の形で示しているのがこの本だ。新書版でわずか132ページの小さな本だが、前向きなメッセージが凝縮されている。 その秘訣は、シアトルの魚市場、パイク・プレイスにある。著者たちはその市場がなぜ活気に満ちているのかを探り、そのノウハウを伝えるビデオを作成した。そのビデオは社員教育用ビデオのベストセラーとなり、数々の賞を受賞しているという。そのノベライズが本書である。 本書では活気あるオフィスづくりに焦点を当てているが、その方法は家事でもPTAでも応用できるはずである。楽しく何かをするための秘訣は、あっけないほど簡単。それを魚市場から学ぶという発想自体が、なにやら楽しげだ。秘訣はたった4つに集約されており、どれも難しいことではない。 この本は、意義のある充実した毎日を過ごすための手助けとなる本である。個人がハッピーに仕事ができれば、企業の生産性も高まるという点を見ればビジネス本に分類されるのであろうが、不満だらけの生き方から脱出するという意味では、誰が読んでも楽しい本だといえる。(朝倉真弓)
4つの秘訣
働くことに対して疑問を抱く。
けっして、悪いことではない。
誰もが正しくて
行き場のない怒りと
行き場のない涙で押しつぶされそうになったとき
ちょっとした、ヒントがほしいとき
この本から得るものがある。
それは、たった4つの秘訣なんだ。
「態度を選ぶ」
「遊ぶ」
「人を喜ばせる」
「注意を向ける」の4つだ。
えっ?
なんのことかわからない?
魚市場を舞台にこの本が教えてくれるさ。。。
『
琥珀の望遠鏡〈上〉?ライラの冒険III
』
新潮社
price :
¥740
release : 2004/06
「児童文学」を超えた深みのある作品
三部作の完結編です。
ここまで読んで初めて、この本の深さ、素晴らしさを知った感じです。それまでは、畳みかけるようなイベントの連続に、物語の面白さだけに目を奪われていたように思います。
アダムとイブの物語の再構成を、ものの見事に成し遂げていますし、その裏にある無神論的な考え方もはっきりと伝わってきます。
「キリスト教徒だったときは、メアリーも自分がなにかにつながっていると感じていた。ところが、教会を去ってみると、目的のない世界の中で、自分がときはなたれて自由で軽くなったように感じた。」
抑圧する教会の秩序に対して、そこから離れた自由を希求しています。これこそが、この作品の言いたいことでしょう。しかし、全く否定しているようにはみえません。「なにかにつながっている」と言う安心感をもたらしてくれるものとして、それは肯定されています。でも、それ以上の熱狂的な狂信性は排除しています。この点については、まさに、現代的な問題でもあるように思います。
それと、メアリーに「善人と悪人がいるんじゃないと信じるようになったの」と言わせているように、「善」と「悪」というのは、行いについて言えることであり、個人の中に「善」と「悪」の要素があるというのです。従って、この作品に登場する人物は、敵味方問わず丁寧に描かれています。
そして、この「親のいない」子どもの成長ストーリーは、周りの温かい視線の中で順調に育って行きます。
「児童文学」と言う言葉では、捉えきれない深みのある作品でした。
『
てのひらの中の宇宙
』
角川書店
price :
¥1,470
release : 2006/09
バランス
ファンタジーな世界を抱きしめ続けている父と、
同じ世界に目覚めた幼い息子の話。
ガンの妻をきっかけに、
命ってなんだろう?
無限ってなんだろう?
宇宙の果てしなさ、命の連鎖・・・
色んな事が書いてあるのだけど、
父と子の関わりを見ているとほのぼの。
な、はずなんだけど。
子どもに関わる仕事のアタシには、
ミライ君、君の好奇心は素敵だけれど、
もっと、子どもならではの世界にも心を開いた方がいいよ。
と、感じてしまうのです。
直面していることが、5歳の子には重いから、
そうなってしまうのかもしれないけれど、
バランスがね・・・・。よくないよ。
『
シッダールタ (新潮文庫)
』
新潮社
price :
¥380
release : 1971/02
The Power of Now
木村藤子さんが自らの書籍の中でこの本を紹介されていて気になって手にとって読んでみました。
つい先程読了したのですが期待を大きく超える素晴らしい内容でした。
途中、シッダールタがある事に気がつくのですがその部分を読んでいる時に、
エックハルト・トールの「さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる」を思い出しました。
「今を生きる」と言うことは他の多くの本でも共通して書かれている事で
どんな分野でも極めていくと同じところに辿り着くのかと感じました。
理屈はわかるが具体的にどうしたらいいのかわからないという方は
デール・カーネギーの「道は開ける」を読んでみられる事をお勧めします。
歳月を経て自分が親や老人になった時に読み返すとまた違った気づきが
得られるような気がします。
『
ちびくろ・さんぼ
』
瑞雲舎
price :
¥1,050
release : 2005/04/15
読まないと、食べちゃうぞ!
飾っておくだけでも価値のあるソウルフルな表紙。
幼い頃に読んで強烈に覚えていて、子供ができてまた巡りあった。
とにかく色使いや線に迷いがない。そして「ありえない」展開と結末。
子供が大喜びするのはもちろん、自分が読んでても楽しすぎます。
だいたい絵本は子供向けに色使いして、内容も説教じみたところがあるのですが(続編はそんな感じがして好きになれないのですが)、この本はどこまでもファンキーです。素晴らしい!
自分の黒人好きの原点はドリフだと思ってましたが、もしかしたらこの絵本だったのかもしれません。
発売中止の時期があったなんて信じられない、不幸としか言いようがない。
特に黒人音楽好きなお父さんお母さんは絶対読ませてあげて下さい。
『
鴨川ホルモー
』
産業編集センター
price :
¥1,260
release : 2006/04
ホルモー!?
舞台も京都内、大学内、アパート内、語り手の男子学生の心の声となんともすごい閉鎖空間で進んでいくのにこの自由さたるやいったい何なんでしょう!(笑)
ついつい(?)真剣にひきこまれている自分に時々「でもホルモー…」と我に返る瞬間あり。
でもぐいぐいひきこまれていつのまにかホルモーをホルモーとして認識している私がいます。
すごい力を持ってますよ。ホルモー。
『
椿山課長の七日間 (朝日文庫)
』
朝日新聞社
price :
¥630
release : 2005/09/15
人生において「生」は永遠のテーマ
一回死んだ人間が心残りがあって7日間だけ黄泉がえってくる話。
しかも姿・形を変えて・・・
感想はさらりと読めて、それでおいてスッキリする作品。
ところどころで笑いを誘い、時には感動する。
自分の好きな場面は佐伯が椿山を愛していた、といっていたところ。
「私は100のうち1つしかない本物の恋愛をしていた。それは、すべてを捧げつくせる恋愛なの」はまさに名言。
人にとって「生きる」ということは、永遠のテーマ。
それをSF感を出さずにリアルに描けているのはお見事。
さすが浅田次郎。
『
クライマーズ・ハイ (文春文庫)
』
文藝春秋
price :
¥660
release : 2006/06
父と息子のコミュニケーション
「ランナーズ・ハイ」といふ言葉は聞いたことがあつた。
確か、走つてゐるうちに氣持ちがよくなつてくる状態のことだつたと思ふ。
しかし、「クライマーズ・ハイ」といふ言葉は聞いたことがなかつた。
私はかつて山登りをしてゐたが、登つてゐる時は苦しいばかりで、氣持ちのよい氣分になんぞなつたことがない。
もちろん頂上に登り着いて、大パノラマを滿喫してゐるときは氣分が良い。
しかし、それは「クライマーズ・ハイ」といふ言葉の意味することとは違ふだらう。
そんな疑問を持ちつつこの作品を讀んだ。
おそらく、山登りをする人間の物語なのだらうと思ひつつ。
確かに主人公は山登りをする。
作品の冒頭は、いきなり土合驛の階段の描寫から始まる。
土合驛の下りホームは地下にあり、地上の改札口までは486段ある階段を登ることになる。
私も30年ほど前に經驗し、上越國境の山はホームから始まるといふことを思ひ知らされたものだ。
懷かしく讀みすすめてゆくと、主人公たちは谷川岳に登らうとしてゐることがわかる。
それも名にし負ふ「衝立岩」だ。
しかも57歳!
これだけで、すでに信じられない思ひがする。
ベテラン・クライマーが過去の榮光を懷かしみ、最後の引退クライミングでもするのかと思つた。
しかし、この作品はさう單純な物語ではなかつた。
物語は、「衝立岩」アタックといふ「現在」と日航ジャンボ機墜落事件といふ「17年前」とが交互に描かれてゆく。
主人公の悠木は「北關東新聞」の遊軍記者だつたが、この日航機墜落事件の全權デスクに任命され、報道の全責任を擔ふことになる。
新聞社とはいつても、そこはひとつの企業組織だ。
報道する姿勢と企業組織の利益とは必ずしも一致しない。
悠木は組織の軋轢や、企業としての新聞社の利益と報道とはかくあるべきといふみずからの信念との葛藤に苛まれる。
なぜ、17年後、悠木は「衝立岩」に登るのか。
じつは、日航機墜落事故が起こつたその晩に、同僚の安西と「衝立岩」に登ることになつてゐたのだ。
事件發生により、安西との約束をすつぽかしてしまふことになつた悠木であつたが、安西も同じ晩に發作で倒れて亡くなつてゐた。
二人の約束が、期せずして二人とも果たせなかつたのだ。
安西は悠木の「なぜ山に登るのか」といふ問ひに、「下りるために登るんさ」と答へてゐた。
この謎めいた安西の答への意味がわかるのは、悠木が安西の息子と「衝立岩」を登つてゐる最中、つまり17年後のことだつた。
「クライマーズ・ハイ」とは、作中で安西が悠木に説明してゐる。
「興奮状態が極限にまで達しちやつてさ、恐怖感とかがマヒしちやうんだ」
この言葉、岩をやつてゐる最中のこころのありやうを説明してゐると同時に、日航機墜落事故といふ空前絶後の事件報道に關はつた者すべてにあてはまる言葉だつたのかもしれない。
仕事に追はれて息子・淳とのコミュニケーションがとれなかつた悠木。
そんな悠木が不器用ながらコミュニケーションを取らうとした手段が山登りだつた。
淳と安西の息子・燐太郎を連れて山に登る悠木。
そして燐太郎は地元山岳會でも名の通つた有望なクライマーに成長した。
17年後、3人で「衝立岩」に登らうとしたのだが、淳とは聯絡が取れず、悠木と燐太郎の二人で「衝立岩」に登ることになつた。
私の一番好きなシーンは、悠木が大きなオーバーハングを越えられずに苦勞してゐる場面。
アブミの最上段に足をのせて、手を思ひきり伸ばしてもハーケンに手が屆かない。
「一番近いハーケンでも俺には遠すぎるんだ」と悠木。
すると燐太郎が云ふのだ。
「屆くはずです。だつて?」「そのハーケン、淳君が打ち込んだんですから」
父と息子。
高齡の父を案じて、下見に登つて來て、困難なところにあらかじめハーケンを打ち足しておく息子。
息子は父が思つてゐるより成長してゐるものなのだ。
このシーンで、不覺にも涙がこみ上げてきてしまつた。
この作品には、考へさせられることが、ぎつしりと詰つてゐる。
もう少し時間をおいてから、また讀み返したい、そんな作品だ。
・文芸作品
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